東京高等裁判所 昭和35年(う)1074号 判決
被告人 吉田忠次
〔抄 録〕
弁護人の控訴の趣意中事実誤認を主張する点について
原判示によれば、被告人は自己の営んでいる原判示貸金業の業務に関し、原判決末尾添付の別紙一覧表記載のとおり約三十七回にわたり、被告人自ら又はその使用人を通じ、鬼山良之助ほか十名から合計約金六十九万円余を預かりもつて、業として預り金をしたものであるというのであつて、この事実は、原判決挙示の各証拠を総合すれば充分これを認めることができる。所論は、右鬼山ほか十名の大部分は、いずれも被告人又はその使用人の親戚や知己であつて、これらの者は、いずれも出資の受入預り金及び金利等の取締に関する法律第二条第二項にいう不特定且つ多数の者とは解せられないから、これらの者から預り金をしたことは、罪とならないものであるというのである。ところで、同条第一項にいう「業として預り金をする」というのは、同条第二項の規定するところを併せ考えれば、他の法律に特別の規定のある場合を除き、反覆継続の意思をもつて不特定且つ多数の者から金銭の受入をすることをいい、右の不特定且つ多数の者とは、預り金をする者との間に個々的なつながりのないある程度以上の複数の者を指すと解すべきであつて、たとえば、預り金をする者の懇意な友人、知己あるいは親族とかいうようなものは、ここにいう不特定の者と解することはできないのである。しかし、いやしくも相手を選ばず、多数の者から反覆継続して預り金をする意図の下に預り金をした以上、たまたま預り金をした相手方のうちに個々的なつながりのある者、たとえば、懇意な友人、知己あるいは親族とかいうものが含まれていても、同条第一項の禁止を免かれることはできないものと解すべきであつて、原判決挙示の各関係証拠を総合すると、右鬼山らのうち、同人ほか六名の者は、本件各金員受入れの事務等を取り扱つた被告人の使用人らの知人であつたが、本件各行為は、相手方を選ばず、多数の者から反覆継続して預り金をする意図の下になされたものであることが認められるのであるから、右使用人らとこれらの者との間に知人関係があつたからといつて、本件被告人の刑責には、なんらの消長を及ぼすものではないのである。それ故、原判決にはなんら所論の事実の誤認はない。論旨は、理由がない。
(下村 高野 真野)